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マルタ・アルゲリッチ
この2人、本当に美男美女だったのである。これがドイツ・グラモフォンから発売されたマルタ・アルゲリッチとクラウディオ・アバドの最初の共演盤。1967年、写真はリハーサルの時のもの。音質はともかく、円盤を買いに出かけずともこうやってワンタッチで聴けるというのはやはりいい時代だ。今のアルゲリッチを想像して……花の色は移りにけりないたづらに、と思わずにはいられない。最初から花も実もない僕にはどうでもいい話ではあるが。プロコのピアコン3番聴くためにかけたんだけど、ラヴェルの「ゴジラ」、つまり伊福部が元にしたピアノ協奏曲ト長調、あと夜のガスパールが続きで入ってて、いい盤だよねぇ。聴くために作られてる感じ。名前で有名どころの曲を集めてるのとは違うよね。
1980年のチャイコのピアコン1番も好きで(それが入ってるフィリップスの盤は先に入ってるラフマ3番ばかり話題にされるようだが)、多分若き日のアルゲリッチに惚れてるんだろうな。僕はピアノをちゃんと弾いたことがなく音楽がわからないからミスタッチとかまったく気にならないし。
(この目線に惚れるよね。。。)
ラフマの2番を弾いてないのがほんとに残念、録音がないだけで弾いたことはあるのかな。若いアルゲリッチの引くラフマのピアコン2番、想像しただけで涎が出る。おなじ「センスでパワフル」枠のリヒテルのかの録音で代替しようとするんだけど、違うんだよな。リヒテルの演奏は熊だから。それならアシュケナージの丁寧で滋味溢れる演奏の方がいい、となる。なんだろうな、この違い。女性差別?若い女が弾いてるとよく聴こえる、みたいな。実際、言語化できないセクシャルなアトラクションがあるんだと思う。そういう魅力を持った若い女性になりたいと憧れた時もあった。もう諦めて、男の子でしかない自分を受け入れることにしたけど。聴きながら茹でるのはラーメンなので、いちいちパスタを茹でているときのBGMを明記するような小説家にはなれない。僕にはなれないものがたくさんある。
▲リヒテルのセンスでパワフルなラフマピアコン2番
▲アシュケナージの滋味溢れる演奏のラフマ2番
僕は一度だけ、生でアルゲリッチの演奏を聴いたことがある。2014年のことだ。でももう忘れちゃったな……もう一度聴きたいけど、機会があるかどうか。
チック・コリア
アバドのライバルだったムーティが今年のニューイヤー振ってて、アバドは早死に(2014年没)だったなぁと思ったら、この2人は歳がちょっと離れてるのね。アバドは1933年生まれで、ムーティとアルゲリッチは1941年生まれ。で、ここにもう1人、41年生まれのピアノ弾きの有名人がいるわけ。チック・コリア。
チック・コリアにクラシックの味を教えたのがフリードリヒ・グルダで、彼はデビュー前のアルゲリッチが惚れ込んで師事した人。コリアとグルダでモーツァルトを連弾したりしている。この3人に共通するのは、やっぱり天才だってことよね。誰も太刀打ちできないセンスがある。そのかわり、「正しく」演奏するということはできないのだろう。笑
アバド、ムーティというイタリアの指揮者の流れでは、僕はジュゼッペ・シノーポリが好きなんだけど、60歳にもならず早逝している(シノーポリについて書いた記事はこちら→シノーポリのワーグナーが好きなわけ - 読んだ木)。チックの後釜として(そういう捉え方もよくないんだけど)聴いてるのは、ゴンサロ・ルバルカバ。
▲ゴンサロは日本に来てチックと一緒に弾いてたのを生で聴いた。もう二度と体験できない贅沢。
でもなんていうのかな、やっぱり時代の空気っていうのは録音でしか吸えないっていうか。冒頭のアルゲリッチ&アバドが1967年で、そのころグルダがベートーベンのピアノソナタ全集録音してて、チックの羽的軽が1972年でしょ、ほんと面白い時代だったと思うのよね。で、カラヤン全盛期でもあった。日本ではソニーとかのメーカーの力もあって、みんな来て演奏してくれた。すごい時代だよ、改めて考えてみると。そして、それがもう半世紀前。今の時代にもそういう天才の人たくさんいるんだろうけど、やっぱり半世紀ぐらい経ってみないと、僕のような凡人があーこれはすごいな、みたくわかるような目利きってされてこない。選ばれて録音されてレコードになってCDになってアップルミュージックになる、という歴史的キュレーションの過程が、僕の耳を楽しませてくれると思うと、感慨もまたひとしお。だけど、実のところ、何かをすごいと思う自分の感覚はそうやって人為的に選別されたものによって訓練された結果でしかないのかなと思うと、悄然としてダマシオ。
▲グルダのはこれ。
▲羽的軽
そんなことを書いていたら、チックの訃報に接する。
去年リー・コニッツが亡くなった時は、まぁ歳だからなと思ったが、チックが亡くなるとは衝撃。とはいえ、このポストで触れたアーティストはもうみなアラエー(アラウンドエーティ)なのだから、当然お迎えが来る年頃だ。チックは癌を患っていたらしい(稀な形の癌、というニュースがあったがどういうことなのだろう)。ジャズやフュージョンの分野でいくと、1940年生まれのチャック・マンジョーネあたりも危ないかもしれない。チャックはまだ生で聴いたことないから一回でいいから生きてる間に……とはいえ金管だし流石にもう無理か。10年くらい前に日本に来て吹いてた気がするけど。まぁもう一時代の終わりなんだな(日本ではまだまだアラエー大活躍ですが)。あとで書いた記事で気づいたが、リー・オスカーやビリー・ジョエルも40年代生まれだった。
スペインのような衝撃を与えてくれる最近の曲ってあるのだろうか。僕は実質的に高校時代で音楽との付き合いが終わっているから(大学で多少お遊びでやっていたとはいえ)、その後についてももっといろいろなことを知りたい。もっといろいろな音楽に触れてみたい。僕自身が、死んでいく人とともに朽ちていくような気がして怖い。まぁ、僕も死んでいく人の一人なのだから、それも生きている瞬間の足掻きに過ぎないのだが。
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▼チック・コリアのスペインについて