読んだ木

研究の余録として、昔の本のこと、音楽のこと、子育てのこと、鉄道のことなどについて書きます。

ガトーショコラとチョコクロワッサン

 今週のお題「チョコレート」にちなんで。

 「チキンライス」という歌がある。松本人志作詞で、槇原敬之が曲をつけ、浜田雅功が歌ったあの歌だ。大人になっていくら贅沢できるようになって、どんな高級なものを食べてみたって、幼少時のクリスマスに味わったチキンライスの味には敵わない、という趣旨の歌だったと思う。

 誰しもそういう幼少期の思い入れのある食べ物があるだろうが、僕にとってそれはガトーショコラかもしれない。母親が作っていた、クーベルチュールチョコレートを買ってきて生地を作り、焼いて最後にブランデーを垂らす濃厚なものだ。その記憶を元に、高校生くらいから20歳を過ぎたあたりまで、僕自身も毎年クリスマスにガトーショコラを作っていた。そんなわけで、僕のイメージではチョコレートといえばガトーショコラ、あるいはクリスマスといえばガトーショコラ、という感じだった。しかし、実家を出てオーブンのない生活になったこともあり、それ以来手作りしなくなってもうだいぶ経つ。作り方もすっかり忘れてしまった。だいいち、市販のものでもガトーショコラを食べるチャンスがなくなった。考えてみれば、ずいぶん贅沢な食べ物だったのだ。

 ▼ガトーショコラを作る時には必ず手に入れていた、大東カカオのでっかくて分厚い板チョコ。 

 

 自分が親となった今は、今度は自分で何か作らないと、子供がお菓子作りの楽しみや手作りのお菓子の味を経験できない。できれば僕のこの記憶の中にしか保冷されていないガトーショコラの味を解凍して子供に伝えたいところだが、まだ片手で数えられる年齢の子供たちには作ることはおろか味を理解することもままならないだろう。

 そこで今年のバレンタインには、チョコクロワッサンを作ることにした。作り方は至って簡単。冷凍のパイ生地を買ってきて、半解凍したものを三角に切り、その底辺に細かく割ったガーナの板チョコを置き、くるりと巻いて卵黄を塗るだけだ。*1 材料費は1,000円もいかないのではないか。

 子供には三角に切ったパイ生地とチョコを渡す。子供は手を舐めながらチョコを砕いて、そのかけらを置いては巻き、置いては巻きしていく。全部巻けたら卵黄を渡し、指で満遍なく塗らせる。200℃のオーブンで15分焼けば出来上がり。

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 はっきりいって、不恰好で味もつまらない代物だ。ガトーショコラに及ぶべくもない。やれやれ。一つつまんで口に放り込む。その間に、小さなパティシエは次々に自分の作ったチョコクロワッサンを口に運んでいる。相方と下の子もご相伴に与ってご満悦である。休日の午後が、静かに過ぎてゆく。

 

 確かに、僕は大人になって、その気になればメゾン・カイザーのパン・オ・ショコラを買って食べることもできるようになった。アニヴェルセルのガトーショコラだって手に入れられないことはない。クーベルチュールと生クリームとVSOPのブランデーを使ったガトーショコラだって作ろうと思えば作れる。だけど、小さなパティシエの巧みの技が生み出す個性的なチョコクロワッサンと、それを食べる家族の時間は、金と時間をかけて手に入れるものには代え難いものかもしれないな……そんなことを考えながらぼうっと子供の顔を見ていたら、「何見てんの〜!」と言われて我に返った。気づけばチョコクロワッサンが残りひとつしかない。「私がだいぶ食べちゃった」と相方が笑いながらいう。僕は最後の一個をつまんで口に放り込み、ゆっくりと味わった。

 

 母のガトーショコラの味も忘れ難い。だけど、今の僕はチョコクロワッサンがいいや。

 

 

チキンライス

チキンライス

 

 

*1:ただし、次の三つの点に注意する必要がある。第一、解凍前のパイ生地を割らないよう注意する。第二、パイ生地がまだ曲がるか曲がらないかぐらいの解凍時点でカットを終える。第三、カットのサイズは底辺がクロワッサンの幅になることを意識する。