読んだ木

研究の余録として、昔の本のこと、音楽のこと、子育てのこと、鉄道のことなどについて書きます。

リー・オスカーのベスト盤

 日が伸びたので、まだ明るいうちに洗濯物を取り込もうと、ベランダに出る。日本海側の上信越の山地でよく冷やされた冷たい空気を運んでくる北西の風がやみ、風は南から吹くようになる。我が家は海沿いにあるわけではないが、南風は微かな潮の匂いをベランダまで届けてくれる。春の訪れを感じる瞬間だ。もちろんこの後に立て続けにくしゃみをし、ついで鼻血混じりの鼻水が出てくるところまでが定石である。

 風が吹いてくると、思い出すLP盤がある。その名も「風を見たかい」だ。

ベスト・オブ・リー・オスカー

ベスト・オブ・リー・オスカー

 

 

 これは、1981年に発売されたリー・オスカーのベスト盤 The best of Lee Osker のライナーノーツに付せられた邦題である。CD盤にはそのようなタイトルはついていないようだ。

 リー・オスカーはデンマーク出身のハーモニカ奏者で、やはり彼も40年代生まれ、1948年に生まれて現在72歳。18歳の時にハーモニカをひとつポケットに入れてニューヨークへやってきたという。西海岸に流れ着いた彼は、70年代に次々とヒット作を送り出し、米国屈指の器楽奏者として名を馳せた。アルバム冒頭に入っている1976年の The promised landや、1978年の Before the rain が有名かもしれない。The promised land の邦訳は「約束の地」だが、それが最初に収録されたアルバム Lee Osker のA面1番がThe journey だっためか、ネット上では「約束の旅」と書いている人もいる。2番がImmigrant で、3番が約束の地だった。

Lee Oskar

Lee Oskar

  • アーティスト:Oskar, Lee
  • 発売日: 1995/01/24
  • メディア: CD
 

 

 暖かい風を感じると、ドライブに行きたくなる。いつだったか、ロサンゼルスからサンフランシスコまで、6, 7時間のロングドライブをやったことがある。夕方にサンタモニカを過ぎて海沿いのパシフィック・コースト・ハイウェイに進路を取り、太平洋に沈む夕日を眺める。日が沈むと共に海を離れ、砂漠地帯を一路北へ向かい、途中のタコベルで軽くディナーを済ませ、日付が変わる頃にサンタ・クルーズの宿になんとかたどり着き、翌日サンフランシスコ入りした。別の時には、サンノゼからサンフランシスコへ向かい、完全にジャムにはまって打ち合わせに2時間近くも遅れたことがある。日が暮れてしまったのでその後の予定は全部忘れて、フィッシャーマンズワーフのピアでカニだかエビだかを食べた。またある時には、半日サボってナパワインを飲みに行こうとしたが遠いので、スタンフォード大の裏の山の上のワイナリーでテイスティングしたこともあった。僕は運転者だったのでアルコールは飲まなかったが……いずれにしても、それらアメリカ西海岸でのドライブの時の記憶と重なるからか、このベストアルバムに入っている San Franco Bay (邦題は「朝日のサンフランシスコ・ベイ」)も好きな曲の一つだ。

 この曲には歌詞がついていて、「百万人が行き交うサンフランシスコ、一人として見知った顔はいない、90万が9時5時で働いて、残りの10万は夜通し働く、サンフランシスコベイでは、みなサンフランシスコのやり方で楽しむのさ」云々と歌われる。サンフランシスコのせわしなさを描写しつつも、まだどこか西海岸の牧歌的な香りの残る情景だ。地価が高騰して人の住めなくなった今のサンフランシスコとは、ややイメージが異なるかもしれない。

 

鈴木英人 版画 作品集 VOL.1&2 セット

鈴木英人 版画 作品集 VOL.1&2 セット

  • メディア: ホーム&キッチン
 

 

 このオスカーの盤でもうひとつ好きなポイントがある。それは、鈴木英人のジャケットデザイン。鈴木英人はいろいろな人のLPジャケットにイラストを描いているが、このエキゾチックで爽やかな感じがたまらない。一度テレビでその制作風景を見たことがある。まだDTPなどない時代で、トレーシングペーパーを何枚も重ねたものをレイヤーとして、緻密に色と図形を配していく職人技だった。

 リー・オスカーをWikipediaで見ようとすると、中国語と韓国語のページはあるが、日本語のページはない。当時聴き尽くされて、いまや聴く人もいないのか。これまでもブログ記事をいくつか書いてきて思ったが、どうやら僕の音楽体験は1940年代生まれのアーティストにかなりフォーカスされているようだ(1940年代生まれの音楽家たち - 読んだ木)。それは、うちにあったレコードがそうだったからとしか言いようがないのだが、そのアーティストたちがあまり聴き継がれていないことは返す返すも残念である。僕が大好きで、その影響でフリューゲルホルンまで買ったチャック・マンジョーネ(1940年生まれ)も、いまや知る人ぞ知るプレイヤーだ。神谷町の文房具屋に、多分ブルーノートでやった時のものだろう、サイン盤が文房具の棚の間に飾られていてぶったまげたことがある。その店主の方が好きだったそうだ。また機会があれば、チャックについても書こうと思う。

フィール・ソー・グッド

フィール・ソー・グッド

 

 

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