ちょっと前の記事で、ショスタコーヴィッチの交響曲第5番の冒頭が、もとは四分音符=88のところ188という倍に近い速さで演奏されるようになったという話を書いた(雨の日のラヴェル、アメリカのラフマニノフ、道化のショスタコーヴィッチ - 読んだ木)。
テンポを誤って高速で演奏するようになった曲といえば、バンプ・オブ・チキンのダンデライオンを思い出す。藤原の作った曲のノリを、確かドラムの升か誰かが勘違いしてアップテンポな曲にしてしまった、それが案外面白いのでそのまま録った、みたいな話だったと思う。個人的にはゆっくり弾いてSMAPのらいおんハートみたいな曲にしてもらった方が味があった気がしないでもないけど、まぁ初期のバンプらしいっていうかなんていうか。
バンプ・オブ・チキンは今も活動しているのだろうか、と思って調べたら、今は3人でやっているらしい。日本ではあまり自由恋愛みたいなのは認められてなくて、特に婚姻後はお互いが1人の相手を占有することになっているから、不倫をした人は社会的な活動をしてはいけないということで、バンプのベースの直井も不倫を理由にいま活動休止中とのことである。僕はあまり他人を占有したいとかされたいとかいう気持ちがないのでよくわからないが、世の中はそういう気持ちを強く持っている人が多いのだろう。斉藤環が承認をめぐる病とかいう本を書いていた通り、他人を占有しないと自己を保てないということかもしれない。いずれにしても、恋愛沙汰というのはあまり関わりたくないものである。
ダンデライオンといって思い浮かぶのはもう一つあって、ユーミンの歌。ボヤージャーというアルバムに入っていて、確かそれはレコードで持ってた気がする。この曲の歌なんか、まさに他者依存する話だ。「とても幸せな 淋しさを抱いて これから歩けない 私はもうあなたなしで」っていう、まぁユーミンにしか許されないであろう倒置法の文でサビが締め括られる。この歌詞は出てくる文章みんな倒置法なので、歌詞解釈を検索すると無茶な解釈がたくさん出てくる。あと、この曲が書かれたのがまだウーマンリブ華やかなりし頃だったから、女性が男性を「きみ」って呼んでいることは自然なのだが、最近の人にはそれもわからないらしい。こうして歌は曲がられてしまうんだな、テンポが変わってしまうのと同じように……などと思ってしんみりする。
速さを変えた歌の話に戻すと、ピッチを変えるためにあえて録音した速さを変えることもある。昔はデジタルではなかったので、速さを情報上のかけ算で伸び縮みさせることはできなかった。そこで、ゆっくり吹き込んだテープを早回しすることでピッチを変えていたのだ。その代表曲が、ザ・フォーク・クルセイダーズの「帰って来たヨッパライ」である。早回しテープの録音でできたあの歌のメインボーカルの甲高い声が、フォークルのコミカルで華々しいデビューを決定づける要素だったことは言うまでもない。
ちなみに、クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」のオペラ部分も異様に高い声が入っているが、あれは映画「ボヘミアン・ラプソディ」のシーンでも出ていたように、ドラムのロジャー・テイラーが頑張ったもので、早回しではない(いい映画だったな……)。