読んだ木

研究の余録として、昔の本のこと、音楽のこと、子育てのこと、鉄道のことなどについて書きます。

シノーポリのワーグナーが好きなわけ

 最近どうも音楽の話ばかりしているようだ。

 以前の記事で、シノーポリの振るワーグナーが好きだという話をちらっと書いた(1940年代生まれの音楽家たち - 読んだ木)。しかし、シノーポリの表現するワーグナー前奏曲は、普通に聴けばむしろまとまりのない、また縦ノリのもったりした演奏だと感じられるだろう。流れるような力強い演奏は他にいくらでもある。しかし、僕がシノーポリの曲作りを好きなのには、理由がある。

 

ワーグナー:序曲・前奏曲集

ワーグナー:序曲・前奏曲集

 

 

 僕は高校時代に吹奏楽部に所属していた時期があり、大学時代にはバロック音楽を弾いたりするサークルにいた(モーツァルト日和 - 読んだ木)が、高校時代の楽器が低音で和音の根音を担当するチューバ、大学時代の楽器が内声で第三音を弾かされるビオラだったことから、高音の主旋律以外の音ばかり聴いていた。特に内声は、そこでの旋律が主題のどのような展開であり、あるいは外声の主題展開に対してどのように呼応するものなのかを常に意識させられる。実際は意識するだけで全く弾けなかったから、意識するだけ無駄なのだが、しかし曲を聴くときにはそういう関心が惹起される。

 そうなると、交響曲の聴き方は、目立つ外声のメロディだけを追うのではなく、むしろ第一ヴァイオリン、第二ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス木管金管、あるいは打楽器などとの間の掛け合いや、メロディの重なり合いに向くことになる。だから、トップのメロディラインを中心にまとまりよく仕上げた演奏より、いろいろな楽器が代わる代わる前に出て来たり、場合によっては波のように出たり入ったりするような演奏の方が、好きなのだ。

 付け加えれば、ワーグナー前奏曲が好きなのは、チューバが非常に効果的に使われているからである。検索すると、「リヒャルト・ワーグナー 音楽的創意にみるテューバの用法」なんて博士論文が出てくるほど、ワーグナーにおけるチューバの役割は大きい。「ニーベルングの指環」のために「ワーグナーチューバ」なるものが開発されたほどだ。

 

 (これめっちゃ安いけどちゃんと音鳴るのかな……)

個人的には、「マイスタージンガー」の前奏曲で、F管のチューバ(当時主流だったのはまだF管のバス・チューバだった。この曲以降は、B♭管のコントラバス・チューバが用いられるようになる)がファゴットと共に堂々奏する主題が本当にかっこよくて好きだ。シノーポリはここの高音を押しとどめ、これでもかと低音に吹かせてその魅力を遺憾なく表現している。

 チューバは高額な楽器で、高校を卒業してからは見かけることすらなく、当然ながらもう吹く機会もない。もし人生がもう一度あれば、チューバでワーグナーの曲に乗ってみたいものだ。チューバで乗ってみたいのはもう一曲ある。それはドボルザークの『新世界』だ。しかしこれについて話すのは後の機会にしよう。たしか実家にスコアがあったはずだから。もし人生がもう二度あって才能に恵まれるならば、指揮者もやってみたかったのだが、その夢は来世に託すとしよう。

 

チューバ スタンダード100曲選

チューバ スタンダード100曲選

  • 発売日: 2017/11/20
  • メディア: 楽譜