読んだ木

研究の余録として、昔の本のこと、音楽のこと、3人の子育てのこと、鉄道のことなどについて書きます。

コスタ・リカのラ・カンデリージャ農園のコーヒー豆

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 どうも集中できない、頭が回らないので、今日は意を決して朝からカフェへ行き、コーヒーを注文した。意を決するほどのことではないが、意を決することでその行為に意味づけするのだ。そのカフェは、前に「コーヒーのサード・ウェーブなるものを知る - 読んだ木」で書いた職場近くのカフェである。

 コスタ・リカのシャンデリラというコーヒー豆のドリップを注文した。優しくてちょっと渋い味わい。シャンデリアじゃなくてシャンデリラなのか、どういう意味なのだろう……そこで前の記事に書いた、マスターとのやりとりを思い出したのだが、この豆の名前は農園の名前なのだった。それならばと検索してみたら、シャンデリラではなくキャンデリラだった。CHANDELILLERという綴りだと思っていたら、CANDELILLAだったのである。結構違うが日本語話者には同じに見える。

 

農園とコーヒーの味

 この豆を生産しているのは、ラ・キャンデリラ農園(La Candelilla Estate)。フェイスブックに、オリジナルのページがある(https://www.facebook.com/LaCandelillaEstate/)。

 サンチェス家が経営するこの農園は、コスタ・リカでは初めての、独立したコーヒー豆の加工設備を備えた小規模農園だという。キャンデリラ農園が成功したことを受けて、多くの独立小規模コーヒー農園ができて、コスタ・リカにスペシャリティ・コーヒーの市場が生まれた、とこのサイト「Costa Rica Candelilla Estate | Brioso Coffee」に書いてあった。

 世の中には、面白いブログがたくさんあるもので、実際にこの農園への訪問記を日本語で書いたブログがあることには驚かざるを得ない。まさにイッツァスモーワーって感じだ。僕がいろいろ書くよりこっちのブログ記事を読んだ方がよっぽど面白いので、ぜひこちらのサイトに飛んで欲しい。

www.goodspress.jp

 

 この記事を書いている間に、徐々にコーヒーが冷めてくる。この、浅煎りのコーヒーのドリップというのは、冷めてからの味わいがまたいい。このキャンデリラは、ちょっとこう、若木の香りっていうのかな、青々しい香りが奥に潜んでいて、それが魅力だと思う。それほどフルーティさや酸味は感じない。

 

農園名の読み方について

 シャンデリラではなくキャンデリラだった、と書いたが、コスタ・リカはスペインの植民地だった国で、本当はスペイン語読みになるはずである。そうすると、キャンデリラというのもちょっとおかしいかもしれない。「セビリアの理髪師セヴィリアの理髪師 - DVD)」というロッシーニが書いたオペラがあるが、このセビリアはもともと、Sevillaというスペインの都市のことをボーマルシェというフランスの作家がフランス語でSéville(セヴィーユ)と書いたのだった(ボーマルシェの『セビーリャの理髪師 (岩波文庫)』)。それを、イタリア人のロッシーニがオペラにするときにイタリア語でSiviglia(シヴィリア)と書いて、それが日本語で「セビリヤ」あるいは「セビリア」と発音されるようになったものだ(『ロッシーニ セビリャの理髪師 (オペラ対訳ライブラリー)』)。

 しかし、このSevillaという都市名、肝心のスペイン語では、「セヴィージャ」と読む。セヴィージャと書けば、ユーロサッカーに詳しい人はそのチームを思い浮かべられるだろうし、フラメンコ好きの人ならフラメンコのメッカとしてその都市の名を知っているだろう。ここで「ジャ」と発音されているのは"lla"という綴りである。これを「ジャ」あるいは「ィヤ」と読むのは、イェイスモあるいはジェイスモと呼ばれる、スペイン語のある種の方言のようなものだ。日本語で言えば、江戸弁でハ行の言葉がサ行になるようなものかもしれない。スペイン語圏でも地域によってイェイスモ発音するかどうかは分かれるのだが、ウィキペディアによれば、コスタ・リカを含む中米諸国は基本的にイェイスモ発音をするようだ。

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正しい農園名の日本語表記

 だとすれば、この農園名、candelillaはキャンデリラではなく、キャンデリーヤ、あるいはキャンデリージャと読むのではないか。もう少しいうと、"ca"を「キャ」と読むのも英語読みで、スペイン語なら普通に「カ」と読む気がするから、カンデリーヤ、カンデリージャ、が正しい発音のような気がする。そう思って検索しなおしてみると、カンデリージャ農園として書かれているブログページはたくさんあった。

cafe-pico.com

 というか、基本的に昔からこの農園は、コーヒー関係者とかコーヒー通にはカンデリージャとして知られているようである。その人たちの中には現地に行っている人もいるだろうから、その呼び方が正しいように思う。

 どうも、この農園をキャンデリヤと書くのは、スターバックスのサイトのせいのようだ。そう類推できる根拠は、コスタリカのラ・キャンデリラ、と書いているスターバックスのサイトがたくさんヒットするためである。これだからアメリカ大資本の無意識の暴力は怖い。アメリカで英語読みをするのは仕方ないが、アメリカの英語読みを日本語に輸出しないで欲しい。日本語は日本語で、アイヌ語から琉球語から始まり、いろいろな音をこの便利な音節文字である仮名文字で表現しているのだから。

 

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 こんなブログを書いていたら丸1時間が過ぎてしまったではないか。早く仕事に取り掛かろう。その前に二杯目のコーヒーを注文するか。次はどの農園の豆にしようかな、とりあえずその名前で検索してみよう……こうして、いつまでも作業が進まないまま、コーヒー農園の知識だけが増えていく。

 

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