読んだ木

研究の余録として、昔の本のこと、音楽のこと、3人の子育てのこと、鉄道のことなどについて書きます。

都会のカブトムシ

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 僕は田舎の育ちだが、野生のカブトムシというのには会ったことがなかった。田舎といっても色々あるが、僕の育った田舎は二つの川に挟まれた平地で、見渡す限り田んぼが広がり、土手が地平線だった。だからカブトムシのいるような雑木林というのはあまりなく、わざわざそういうところへ行って遊ぶこともなかった。

 もし雑木林へ行くことがあっても、カブトムシは夜行性だから、昼間にいくら遊びに行ってもいなかっただろう。カブトムシを見るのは夏休みのお祭りの出店でだけで、それも小さな虫かごに黒光りする害虫みたいなのが1匹入っているだけだったから、そもそもそれほど心惹かれなかった。

 

 ところが先日のこと。あまりに暑いので昼間は家の中に篭り、子供と遊びに外へ出たのは日も暮れかかった夕方だった。公園で一通り遊んで、さあ帰ろうと踵を返した先の木の幹に、いたのである。野生のカブトムシだ。それが冒頭の写真。

 恰幅が良く、きめ細かい羽の表面が西陽を照り返している。樹木の割れ目から樹液が染み出していたのか、はたまた別の理由があったのかわからないが、静かに貼りついて動かない。しかし弱々しさはなく、むしろ人を背にして堂々たる趣すらあった。僕が昔、虫かごの中にいるのを見たものより、一回り大きい気がする。身体に傷はなく、果たして本当に野生なのか、それともどこかで大切に飼われていたものが逃げ出したのか、と訝る気持ちも湧いてきた。

 

 子供たちと一緒にしげしげと眺め、満足して帰る途中、実は近くの別のところでも野生のカブトムシがいたのを見たことがある、という話が出た。どうやら、あのカブトムシは、逃げ出したインコが野生化した、というのとは違うらしい。やはり、野生のカブトムシがこの大都会にはたくさんおり、僕の育った田舎よりもエンカウント率が高いのだろうか。しかし、カブトムシにとっては僕の田舎の方がよっぽど住みやすいのではないか。なぜ田舎では全く会わなかったのに、都会で野生のカブトムシに何度も会うようなことになるのだろうか。

 そんな疑問にまさに正面から答えるブログ記事があった。

mushikisya.hatenablog.com

詳細はリンク先を参照して欲しいが、要は、都会の整備された公園はカブトムシやクワガタムシにとって生息しやすいが故に、実は都会の方が見つかる個体数が多い、という話である。

 実際その記事の中には、新宿御苑で撮影された数多くのカブトムシ・クワガタムシ証拠写真がある。ブロガーさんの名前もまさに「昆虫記者」とあるから、その道のプロの方なのだろう。それにしても、僕の育った緑豊かで水の豊富な田舎より、こんなコンクリートジャングルの方がたくさんの昆虫がいるとは、全く驚きだ。

 

 最後に、もう少し真後ろから撮った写真。白鳥と違って、カブトムシの背は空の青に染まっている。甲虫は嬉しからずや幹の赤空のあをにも染まりやすらふ、というわけだ。

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