読んだ木

研究の余録として、昔の本のこと、音楽のこと、3人の子育てのこと、鉄道のことなどについて書きます。

転職に近道なし

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人生はいつもつらい。ニンニク入れますか?

 僕の人生が安定することは、滅多にない。他の人がどうであれ、僕にとって人生とはいつもつらいものだ。

 僕が非正規職についており、あと1年ちょっとで職を失うということは前にも書いたかもしれない(感染症と休園に苦しむ親たち - 読んだ木)。その一方で僕は、世の中がコロナ明けに向かうにつれて人手不足気味になって実質賃金が上がっていくことを期待している(コロナ明けの楽しみ - 読んだ木)。ここから導き出される、僕のするべきことはひとつしかない。つまりそれは、転職活動だ。

 僕はあまり真面目に転職活動というのをしたことがない。もちろん就職するときは面接なども受けるけれども、その受ける先はいつもなんだか人の紹介があったり、自分の繋がりのあるところだったりと、自分が探したというよりも成り行きで就職している。

 転職の方法で一番いいのは、そういったリファーラルで、つまり知り合いとかから話が来たのを受けてどこかへ就職することである。ただ、僕の専門とする分野を必要とするような仕事がない。これまでの経歴も、あまり友人に知らせていない。そもそもリファーラルが起こるような人間関係の中に身を置いていなかった。友達が少ないのである。一方、年齢が上がってくるにつれ、市場価値が上がっていない自分を必要とする職場はなくなってくる。もっとわかりやすいスキルを持っていて、社交的な人を取ろうという動機が、リファーラルであればこそ働くであろう。そうすると、既知の繋がりだけでなく、広く就職先を求めていく必要がある。

 昔、採用側にいた身からすれば、単に求人情報が掲載されているだけの転職サイトは使いたくない。転職サイトというのは、使い捨てというか、特に絞り込まずに替えの利く人材を次々に採用するために使っていたからである。そういう人のことをソルジャーなどと言ったりするらしいが、そういうポジションで採用した人を重用することはないし、そういうポジションで独自のスキルを身につけたり、上に上がっていったりすることは、そうでない場合に比べれば非常に難しい。繋ぎのためのアルバイト感覚で転職サイトを使うならいいが、できればもう少し僕のオリジナリティが活かせて、それに合わせた職掌があるポジションにつかないと、今後の家計に支障が出そうだ。

 そこでエージェントということになる。初めて僕はこのエージェントの転職サイトというものに登録してみた。スキルに対するカウンセリングなどが受けられるのかと思ったが、そういうわけでもないらしい。転職して圧倒的に給料が上がるのかと思えば、それもない。どの仕事も下限が今の僕の給料と同じくらいなのだが、今の僕の仕事より数百倍ハードそうな仕事ばかり流れてくる。それで、そんな仕事に自分がマッチしているのだから転職しろ、とエージェントの人が説き伏せにくる、というわけだ。ひどい話である。エージェントは給料を上げるために先方とネゴしてくれるんじゃないのか……と思ったが、そういえばそうだった。エージェント系の転職サービス経由で採用したときは、こっちが欲しい人材を説得して引っ張ってきてもらうのだが、給料のネゴがあったときは、逆に紹介料を下げてもらうのである。企業側としては、エージェントは紹介料が高いので、採用した初年の賞与を削ったり、逆に2年目以降の給料を減らしたりして損が出ないようにするのだが、採用される側の転職者が「やりがい」とかに騙されずにちゃんと給料をネゴしてくる場合は、紹介料を減額してもらう。一人採用するのに二百万とか三百万とか平気でかかるので、例えば二百万かかるところを百五十万とかにして貰えば、その人の年収を五十万とか百万とか上げても差し支えない、というわけ。まぁ会社によってケースバイケースだろうが、そういうのも懐かしい思い出である。頑張って紹介料払って高い給料出したのに一年足らずでまたどこかに転職されちゃったりね。まぁエージェントが儲けるために無理して転職させちゃった人とかは、定着しなかったな。

 給料が上がる転職というのは、この長いデフレの時期を経て、どうもなくなってしまったようだ。確かに転職サービスから送られてくる案件というのは、名目的には現在の年収より百万か二百万ぐらい高い求人ばかりである。しかしそこには色々なカラクリがあるもので、その詳細は省くとしても、どの案件も、これは転職しても結局給料が上がらないな、ということが僕にとっては明白だ。多分、転職サービスの方でも、あまり給料が上がらないように調整して紹介しているのだろう。それは、次の転職に繋げるためだ。どこぞの大学生向け就職活動サービスも、就職後数年経てば今度は転職の案内を送ってくるという。結局、転職サービスというのは求職者のためのサービスではなく、胴元の転職サービス業者が儲けるようにできているものであって、そのカラクリというのは、要はあまり情報を持っておらず不安に日々を過ごしているような人を捕まえて、人をこき使って儲けようとしている会社に放り込んでその仲介料をいただく、というものである。

 もしこれが嫌なら、その紹介料分、つまり今自分が働いて稼いでいる年収分の30%の額を自分の懐から支払うしかあるまい。これがエージェントの相場である。数百万支払わないと転職者が真に自分のために働いてくれるエージェントを見つけることはできないということだ。実際、コーチングなどを受けている人は、数百万とはいかないまでも、数年間で百万ぐらい払う人は少なくない。あるいは大学院で修士号や博士号を取ったりアメリカでMBAを取ったりするのも、ある種の求職者側が自分で投資して自分の転職先を開拓するための方法であって、コストはやはり数百万である。変なセミナーに数十万払っている人はもう先がないが、個別にきちんとしたカウンセリングを受けた人や学位を取った人、MBAなどを取ってきた人は、そうでない人に比べればその後のキャリア形成がうまくいっている。自分で数百万を自分に投資できれば転職もうまくいき、そうでない人は現状を脱することができず、転職サービス業者に搾取されるという残酷な現実がある。稼ぐ人はさらに稼ぐようになり、稼げない人はさらに稼げなくなる。これが格差をもたらす仕組みだというわけか。

 当然僕は後者の、さらに稼げなくなる人の側なのであるが、そういう人間がするべきことは一つである。今いる場所にしがみつく、ということだ。しがみついている間に、投資しなくても自分を高められる方法をとにかく取っていくしかない。そうすれば、いつかはより太い柱にしがみつけるかもしれないからだ。しかし、非正規雇用だとそこから振り落とされてしまうので、この方法も永遠には取れない。いつかは路頭に迷うかもしれない。とはいえ、学び続ければ道は開けるものだし、怠けなければ結果はついてくるものだが。転職エージェントに幻滅し、改めてこの、泥臭く地道な方法で自分の市場価値を高めるべく努力するしかないという現実を突きつけられた。サイトをパラパラみて、アプリをぽちぽちしているだけで年収がうまいこと上がればいいのにな、という下心がないではなかったが、やはりそんな旨い話はどこにも転がってはいないのだった。

 

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 ちなみに、僕の「転職サービス」嫌いは今に始まった事ではない。前にはこんな記事も書いている。併せてご一読あれ。

yondaki.hatenadiary.jp

 

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 要は「ザッへに帰れ」ということだ、至言である。