読んだ木

研究の余録として、昔の本のこと、音楽のこと、3人の子育てのこと、鉄道のことなどについて書きます。

感染症の拡大と子供の自主休園・休校判断を考える

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色づき始めた西沢渓谷(2016年の写真)

 

 7月後半の記事で「感染症と休園に苦しむ親たち - 読んだ木」と題して、緊急事態宣言や感染拡大に伴う保育園休園などに苦しんでいる親たちの現状について書いたけれども、状況は悪化し続けている。そして9月に入り、学校の秋学期が開始する時期がやってきてしまった。

 保育園休園は、いわば共働き家庭のみを襲う悲劇であるが、学校の休校やオンライン化は子供のいる全家庭が陥る危機である。それは子供にとっては学びや成長における危機であり、親にとってはそれに加えて仕事、生活、健康における危機を伴う。

 この記事では、これまでの経緯を振り返りつつ、休園・休校の判断について整理した。(あわせてこちらも参考にしてほしい:コロナ禍で子供とのお出かけはどこまで許されるのか問題 - 読んだ木

 

保育園や幼稚園における乳幼児の感染をどこまで恐れるべきか

我が家の辿った経過と、2020年9月以降の感染リスクの判断について

 我が家では、昨年(2020年)の緊急事態宣言が始まる2週間ほど前、3月末ごろから、子供を自主的に休園させていた。ちょうどその時、下の子が生まれるところであったので、母子の大事をとっての判断だった。そのまま4月上旬に緊急事態宣言が発出されると、仕事場の建物に原則入れなくなり、保育園も休園、5月末まで一家在宅で過ごした。6月は2ヶ月分の仕事の停滞などを巻き戻すため、また感染が落ち着いた(当時はもうこれで一旦感染が収束する可能性も感じられた)ため、上の子は登園させ、下の子を家で見ながら在宅勤務していた。しかし再び感染が拡大し、第二波の可能性が感じられるようになったため、7月から再び子供を休園させ、実家へ疎開しようとしたが上手くいかず、8月まで在宅で子守りをしながら勤務。限界が来て、2020年9月以降は積極的に登園する方針に切り替え、年末に緊急事態宣言の再発令があった時も登園させ、その後は一度も登園自粛していない。とはいえ、「感染症と休園に苦しむ親たち - 読んだ木」に詳しく書いた通り、今年度(2021年4月〜)も半分くらいしか登園できていない。さらには過労で休職する保育士さんなども複数出てきて、状況は改善する兆しもない。

子供を登園・登校させることで生じる二つのリスク

 さて、2020年9月以降に積極的登園への方針転換をするにあたって、僕はいくつかの情報ソースに基づき、保育園や幼稚園における乳幼児の感染リスクについての考え方を改めた。以下にそれを紹介し、今も同様の困難に直面している人々の参考にしてもらえればと思う。

 まず重要なのは、そのリスクには二つの側面があるということだ。一つは、感染者自身、つまり子供自身が感染したことによるリスク。体調が急激に悪くなる、後遺症や不可逆的なダメージを子供が受ける、といったことである。もう一つは、感染した子供が他の人に移すリスク。本人が軽症でも、周囲が深刻なダメージを受けるケースだ。

第一のリスク:子供が感染して深刻なダメージを受ける可能性

日本小児科学会の見解

 第一のリスク、子供が感染して深刻なダメージを受けるケースについては、種々の情報を鑑みて、インフルエンザよりも程度が軽く、それほど大きなリスクを見積もらなくても良い、つまり登園、登校させて子供がかかったところで大したことはないし、乳幼児の場合はそもそも園でかかる可能性は低い、という結論に至った。この結論のエビデンスは色々あるが、重要な二つを紹介したい。

新型コロナウイルス感染症に関するQ&A|公益社団法人 日本小児科学会 JAPAN PEDIATRIC SOCIETY

www.jpeds.or.jp

 ここには、Q2で重症化のリスクが低いこと、Q11で通園通学を控える必要がないこと、が指摘されている。特に、「可能な範囲で通常の日常生活を続けることも子どもの成長や発達には不可欠なことです。」という冒頭のメッセージが重要である。親が過剰にリスク回避することで子供の成長を阻害することはあってはならない。親はむしろ、知見に基づいてギリギリまでリスクを取って子供の成長に資するようにしなければならない。そう考えた。

コロナよりも自殺が怖い

 もう一つの重要な資料は、上のエビデンスとも言えるが、年齢別の感染者における重症化率、死亡率である。

新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの資料等(第1回~第20回アドバイザリーボード)|厚生労働省

www.mhlw.go.jp

 資料として具体性のあるものは、この「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」の「第11回アドバイザリーボード」(2020年10月22日開催)の「資料2」のファイル(ファイル名は「【資料2-1】押谷先生提出資料」となっているが、ここには資料2-1,2-2,2-3が一緒に含まれている)に含まれている「資料2−3西浦先生提出資料」の「サーベイランスデータを活用した重症化リスク、死亡リスク」がベストだ(PDFファイルの32-33ページ)。PDFファイルへの直リンクは以下の通り。

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000686295.pdf

 国の公開資料なので出典明記の引用なら怒られないだろう、直接ここにその表を貼る。

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この表は一目瞭然だ。2020年8月までのデータであることに留意する必要はあるが、症状ありの感染者に限っても、10代以下の重症化率は100人にひとりであり、死亡者は1万人に1人よりも少ない数字である(件数が0なので確定できない)。海外の研究では、死亡者は200万人に1人という(新型ウイルスによる子どもの死亡、極めてまれ 200万人に1人=英研究 - BBCニュース)。これに対し例えば、2020年の日本の10代の子供の自殺は2万人に1人以上である(令和2年中における自殺の状況 - 厚労省・警察庁)。子供にとってはコロナよりも、家に引きこもって鬱になり自殺する、というリスクを回避する方が重要である。

第二のリスク:感染した子供が他の人に移す可能性

乳幼児の場合

 乳幼児の場合は答えははっきりしていて、保育園などでの園児同士の感染拡大はない、ということがほぼ明確になってきている。

港区ホームページ/みなと保健所からのお知らせ(11月11日)「区内の保育園における新型コロナの事例報告」調査の結果、園内での感染リスクは極めて低いと判断

www.city.minato.tokyo.jp

 これは、11月末から12月にかけて感染者が増加し、緊急事態宣言再発令のときに登園させ続けることの判断に寄与した。ここには、マスクをつけていなくても、子供たちが保育園内で集団感染することはない、という調査結果が表れている。もちろんこれは、変異株登場前の情報であるが、翌年、つまり今年に行われた調査でも同様の結果となっている。

(2)ー2 港区ホームページ/みなと保健所からのお知らせ(8月27日)「区内の保育施設における新型コロナウイルス感染症の影響調査」報告 【調査の結果】現在の感染対策は有効、保育サービスの維持に役立つ

www.city.minato.tokyo.jp

 数百人規模で保育園での感染を追って分析したもので、昨年との比較も踏まえた分析であり、他の調査より信頼性が高い。要は、保育園で感染が広がるリスクは考慮する必要がないぐらい低い、ということだ。(ただし、保育活動外の、保育園の職員同士、あるいは保護者同士の接触(長時間の立ち話など)で感染が広がるリスクはある。)

 

10代の子供の場合

 子供が感染しても重症化しない、特に保育園で移される可能性は非常に低い。しかしながら、10代の、小学校や中学校にいく子供は、感染する可能性が成人に近くなってくる(現在の新型コロナウイルス感染流行下での学校活動について|公益社団法人 日本小児科学会 JAPAN PEDIATRIC SOCIETY)。ただ、子供の権利と成長環境を守るためにも、子供自身が感染するリスクをおしてでも(未成年の子供自身は感染しても大したことがないのだから)、できるだけ遊びや教育を受ける状況を維持する方が望ましい。そこで重要なのは、子供が感染したときにリスクの高い人にうつさないようにすることだ。

 具体的には、10代の子供がいる場合には、以下のような人に会わない、あるいは会わざるを得ないとき(同居しているなど)には休校させる、ということになるだろう。なお、ここでいう「ワクチン接種済み」とは、ワクチンの2回目接種から2週間以上が経っている状態を指す。

  • ワクチン未接種の中高年
  • ワクチン接種済みでも外出(社交・旅行)の多い高齢者
    (ワクチンは発症予防であり感染予防ではないため、その方を介して他のワクチン未接種の高齢者に感染させる恐れがある)
  • 外出の多い若者
    (若者は感染数が他の世代に比べて高く、その方から子供が感染し、子供が学校で感染を広げる恐れがある)

 もちろん、子供の権利を守るために、子供の周囲の人々がワクチン接種をした上で活動を控え、子供が安心して学校に行けるようにすることが最も望ましい。ただし、ワクチンが行き渡っていない現状では、ワクチンを接種していない人が周囲にいる場合でも、その人々に活動を控えてもらって子供は積極的に学校へ行かせ、教育を受けさせた方がよい。また「女性、高齢者以外、社会経済状況が低い人々、他人を信用しない人々、うつや不安の傾向がある人々はワクチン接種に否定的な傾向が見られる」(RIETI - どういう人々が新型コロナウイルスのワクチンを接種したがらないか:インターネット調査における検証)という調査結果もあり、貧困状態にあり、男性である父親の干渉が少ない家庭の場合などは、ワクチン接種を親が回避する可能性が高くなる。そのことで子供が学校に行けなくなると、さらに教育格差、ひいては経済格差の拡大に繋がる可能性がある。この場合も、ワクチン接種如何にかかわらず子供は学校に行かせるべきである。それによる同居者の感染のリスクは、その同居者の感染対策を強化することで下げるしかない。

 つまり、子供が学校に行くと感染するから学校に行かせない、ではなく、子供が学校に行って感染してきても大丈夫なように、周囲がさらに感染して被害が拡大しないよう対策する、という考え方をする必要がある。具体的には、祖父母は別の部屋で暮らす、親が二人いてどっちもワクチン未接種なら、一家の主たる稼ぎ手である方は家事育児から切り離して別居状態にする(これにより夫婦同時共倒れを回避し、片方が倒れてももう片方が仕事を中断して看護に回れるようにする)、親が一人しかおらずワクチン未接種なら、家庭内でもしっかりマスク着用する、といった対策をとることになるだろう。

 

本人の希望に基づく休園・休校

 ここにもう一つ、考慮すべき要素がある。園や学校がコロナ禍により雰囲気が変わり、子供がそれに適応できないなどの場合だ。例えばうちの園では、休園児が多かったときにやむをえず他の学年との合同保育が行われた。それにより、下の学年の子が心理的プレッシャーを感じて登園を渋ることが生じた。こういった場合、登園させない方がよい。

 また、もとより園や学校に行きたくない、あるいは行かない方が学習効果が上がる、といった子供の場合には、親はコロナ対策関連の制度を十分に活用しつつ仕事などを抑制し、可能な限り子供を休ませることが望ましい。前述の、なるべく園や学校に行かせた方が良いという考え方は、園や学校にのみ遊びや教育の機能があり、家庭にそれがないことを前提とした立場に基づくものであり、むしろ家の方が遊べる、学べるという子供の場合には、このコロナ禍をうまく利用して伸び伸びと在宅等で遊び、学ぶ環境を整えたいものである。

 

休園・休校判断一覧表

 以上のような整理を踏まえれば、休園・休校の判断は以下のようにすることが望ましいと考えられる。あくまで私見であるが。

周囲に感染者が発生するような状況における

休園・休校判断の考え方

保育園・幼稚園
小学校低学年
小学校高学年
中学校・高校
周囲の成人がワクチン接種済みで
外出が少ない
登園・登校 登校
ワクチン未接種の中高年
(40代以上)と頻繁に接触
登園・登校 その方に接種または家庭内マスク着用など
強い感染対策をしていただき登校
(やむを得ない場合休校)
ワクチン接種済みで外出の多い
高齢者(60代以上)と頻繁に接触
登園・登校 その方に外出をやめていただき登校
(やむを得ない場合休校)
ワクチン接種済みで外出の多い
40-50代と頻繁に接触
登園・登校 登校
外出の多い若者(20-30代)
と頻繁に接触
登園・登校 その方に外出をやめていただき登校
(やむを得ない場合休校)
保護者が二人以上いて
どちらもワクチン未接種
登園・登校 強い感染対策を行い、できれば
保護者同士の居住空間を分離した上で登校
保護者が二人以上いて
一人以上ワクチン接種済み
登園・登校 未接種保護者が家庭内マスク着用など
強い感染対策をして登校
保護者が一人だけで
ワクチン未接種
登園・登校 未接種保護者が家庭内マスク着用など
強い感染対策をして登校
子供本人に在宅の希望がある 休園・休校 休校

 

 なお、ワクチン接種については以下の記事に体験とともにまとめたので、あわせて参考にしていただければと思う。

yondaki.hatenadiary.jp

 

 

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