読んだ木

研究の余録として、昔の本のこと、音楽のこと、子育てのこと、鉄道のことなどについて書きます。

梅、桜、山吹——春の花を詠んだ歌

 東京は、桜が咲き始めた。f:id:tsukikageya:20210315204220j:image

咲き始めだが、結構勢いよく咲いている。今週は晴天が続くから、三分くらいまで咲いていくかもしれない。

 春は嫌いだと散々言っているが、今年はコロナで普段からマスクをするようになったおかげか、花粉症の症状が軽くて助かっている。桜が咲くと、嬉しいというより、なんとなくほっとした気持ちになる。今年もようやく春を迎えられたか、という安堵である。それは、ろくなことがない年度末の終わりのしるし、ということでもあるかもしれない。とはいえ、今年度もまだ半月残ってはいるのだが。

 

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 ひと月ほど前には、梅の写真を載せた(湯島天神の梅と和菓子 - 読んだ木)。それほどアクティブではなく、さらにコロナで籠りがちな僕といえども、こういう花を前にすると写真を撮ってしまうものらしい。梅とか桜とかという花は、千年以上前から、人の想像力をずいぶん駆り立ててきたものだ。

 梅といえば、鶯宿梅の歌を思い出す。「勅なればいともかしこしうぐひすの宿はと問はばいかが答へむ」だ。天皇の勅で父紀貫之の形見である梅の木を御所に持っていかれてしまった紀内侍が読んだ歌である。経緯は、次のようなものだ。天皇が「梅枯れたw新しい梅ヨロw」っていうんでスタッフが(単芝うざ……)と思いながら京都の街を探してたらいけてる梅があったんで、その家の主に「天皇の命なんでサーセンwww」つって引っこ抜いて持ってきた。この歌はその梅の木にくくりつけてあったもので、「オメーは天皇だから喜んでこの梅くれてやっけど、俺は別にいいけど、ぜんぜん名残惜しくなんかないけど、でも春になるとこの梅に帰ってくるウグイスちゃんがいるんだよなー(チラッチラッ」という意味である。そんで天皇が、「えっこんな歌かけるのやばたにえんじゃん、これ書いたの誰かググるわ」っつって調べてみたらかの紀貫之の娘紀内侍だということがわかる。まじかーとなった天皇は粋なところを見せて、「えっ、まぁ別に紀内侍が父の紀貫之を慕う気持ちとか、朕は天皇だから全然気にしないけど、でもウグイスちゃんが帰ってくるんじゃなー、まぁウグイスちゃんのためなら返してやらないこともないけどなー(チラッチラッ」ってして梅を返してあげた。スタッフのデューデリの甘さが招いた悲劇である。悲しかったのは2回も引っこ抜かれた梅の木だけど。梅的には「ぶっちゃけ御所の方がいい土だしいけてる庭師だし戻りたくなかったなー」とか思ってたりして。

 ▼鶯宿梅の故事は大鏡に出ている

大鏡 全現代語訳 (講談社学術文庫)

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  • 作者:保坂 弘司
  • 発売日: 1981/01/07
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 ▼鶯宿梅っていう梅の木があるらしく、さらにはそのブランドの梅酒があるらしい。亡き人を忍ばせるちょっと切ない味がするのかな

 

 桜といえば、百人一首にも選ばれたこの歌。「いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重ににほひぬるかな」。紫式部がやるはずだった奈良から来た桜を受け取る役目を譲られて、それを果たした伊勢大輔が、藤原道長に無茶振りされて詠んだ歌。古くからの奈良の都が、一際栄えてますよ、的な意味を歌に乗せたってことらしい。まぁそれは、むしろ道長の周りにいたおっさんたちの解釈で、伊勢は「七重八重、今日九重で明日十二単」ってノリで読んだんじゃないか。その軽いノリが逆にいいって気がするけど。当意即妙な感じがする。多分これ、音の方が大事なんじゃない? 平安時代の日本語の発音ってよくわかんないけど。nとかmが多くてもっちゃもっちゃした感じになりそう。

 ▼百人一首とか花札といえば任天堂だよね

任天堂 百人一首 舞扇

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 七重八重といえば、山吹を詠んだこの歌も有名だ。「七重八重花は咲けども山吹のみのひとつだになきぞあやしき」。兼明親王の詠んだ歌で、山吹の花ってのは七重八重に咲くのに、実は一つもないんだよナァ……という歌に乗せて、うちには「蓑(みの)」ひとつもないっす、ってことを伝えている。なんでこの歌が有名かっていうと、太田道灌の逸話によるものなのよね。東京って今は世界に名だたる大都会だけど、昔は単に沼地だった。そこにはじめて城を構えて開発したのが太田道灌つーひとで。太田さんも、まさかこんな大都会になるたぁ思ってなかっただろう。しかもそこに天皇が移り住んでくるたぁね。で、その逸話ってのは、太田さんがあるとき歩いていたらにわか雨が降ってきて、ちょうど折りたたみ傘とかの持ち合わせがなかったので近くの農家に立ち寄って、おいちょっと蓑ッ!つって蓑を借りようとしたら、中にいた女の子がはいっつって山吹の花をくれて、それっきり。道灌だけにどっかんどっかん怒りながら帰ってきたら、部下に「おめーそりゃ例の超絶有名の誰でも知ってるあの歌をもじって山吹をくれたんだろ(プゲラ」って言われて、太田さんはまじ悔しくて歌を勉強したそうな。つかどっちかっていうと15世紀にそんな歌知ってる農家の少女がやばい。どこで学んだんだよ。

 ▼元の歌は後拾遺和歌集に入ってるよ 

後拾遺和歌集 (岩波文庫)

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  • 発売日: 2019/09/19
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  花の色は移りにけりないたづらに、というわけで、ひと月も経てば桜はもう全て散り果せているのだろう。自分は変わらないように思うが、花が咲いて散るのと同じだけ時間は過ぎているのだ。あな恐ろしや。