読んだ木

研究の余録として、昔の本のこと、音楽のこと、3人の子育てのこと、鉄道のことなどについて書きます。

宮﨑駿「君たちはどう生きるか」感想殴り書き

君たちはどう生きるか」を観てきた

 

 観た後なのでネタバレ有り。

 

 

 TOHOシネマズで宮﨑駿の「君たちはどう生きるか」を観た。面白かったが展開が早すぎてもっと説明してくれないと頭の回転が追いつかない。何回観たらええんや。

君たちはどう生きるか」はどんな感じか三文で

アニメーションはこれまでのジブリ総決算という感じで、個人的には『もののけ姫』で出てきたような描写が多く出てきたのがよかった。バネや継ぎ目の発する細かい音を再現しているのもすごくよかった。物語は村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』みたいだと思った。

 

吉野源三郎君たちはどう生きるか』との関係

 観た後、たまたま立ち寄った書店で岩波文庫吉野源三郎君たちはどう生きるか』が積まれていたので、思わず買ってしまった。数十年前に読んだきりだが、改めて読むと、解説代わりの丸山の回顧録も含めて感嘆することしきりだった。

 吉野『君たち』を読むと、宮﨑「君たちはどう生きるか」の物語の重要な補助線が一つ理解できる。つまり、主人公の眞人君(かわいいので彼だけ君付けで)が吉野『君たちは』を読んで涙したのはどこだったか、ということだ。シーンを見返すことができないので裏を取っているわけではないが、それはおそらくコペル君が自分の卑小さと誤りに向き合い、それを悔い改めようとして受け容れられた場面であろう。眞人君があの時泣いたのも、そこで自己の誤りというものを認識したからであり、それから新しい継母を受け入れ、新しい家族を生きるべく冒険に出るという決断をしたのであったわけだ。しかし、それを映画の中で説明せず、『君たちは』を読む一瞬のシーンに丸投げしてしまうとは、不親切も大概である。

2回の感情の描写

 「風立ちぬ」の主人公堀もそうだったが、主人公の眞人君は表情が少なく、何を考えているかわからない。わからない以上、周囲のさまざまなものでその感情を説明してくれないと、鑑賞者がそれを汲み取るのは非常に難しい。眞人君の感情の描写は実質的には二回しかない。一回目は、母の妹が妊娠した異母弟の胎動を触らされる時。二回目は、『君たちはどう生きるか』を読んだ時。一回目で継母夏子への拒絶がはっきりする。二回目で、継母夏子との和解を目指すことがはっきりする(ここで「僕はどう生きるか」が既に固まってしまっている)。

 で、それ以降眞人君の方向性が変わらないまま物語が進んでいく結果、最後のシーンがほかのジブリ作品と全く異なっている。最後のシーンでの、積み木世界創造の拒絶と現実回帰のシーンは、ほかのジブリ異世界系の作品なら一番盛り上がるところのはず(特に漫画版『風の谷のナウシカ』や『もののけ姫』はこれが決定的なシーン)なのに、眞人君の場合にはもう絶対拒絶することが明らかなので、大叔父と眞人君との間の話はぜんぜん盛り上がらない。大叔父もそれを既に受け容れている。だからインコ大王がそれをわざわざ壊してコミカルに話を進めてやらなきゃいけない状況になる。まさに、「一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」(実際は何度目かわからないが笑)ということだ。

 眞人君は『君たちは』を読んでから物語が終わるまでずっと、夏子との和解だけをほぼ無言で目指している。なのに作中でそれを全然説明しない。これが、この物語が多くの鑑賞者にわかりにくくなっている理由だと思う。眞人君の中で「自己の誤りと向き合って自分の人生を生きること」=「まず夏子さんと和解して共に生きること」という等式が『君たちは』を読んだときに成立した、という前提がわからないと、眞人君はなんで夏子さんをそんなに頑張って探すのだろう、ママが欲しいのか? という解釈になってしまう。というか、『君たちは』を読んでいない人がそういう解釈に流れるように誘導しているのじゃないかと思うぐらいだ。

 君生きバードが眞人君の産みの母親を模造して眞人君に見せるのも、眞人君の感情を揺さぶり、その贖罪の感情をくじけさせてトラウマの方へ引きずろうとするからだが、眞人君はそれをかなりあっさり乗り越える。その先にある夏子さんとの和解という目標が大きいからだ。しかしその目標が大きいものとしてあることを知らないと、なんでそこそんなに簡単に乗り越えられるのか? というモヤモヤが残る。そしてその目標こそ、眞人君が「僕はこう生きる」を獲得するためのステップなのだが、それを『君たちは』を読んで涙するシーンだけで片付けるなんて、なんて不親切なんだ!(二度目) しかし、それは多分、『君たちは』を読め、ということなのだろう。(このあとは、あしたの晩、また書きます。)

 

うめくさ

・眞人君の寝顔かわいすぎる 尊死する

・アレの名前が覚えられない。ざわざわ?ぽよぽよ?ふにふに?

・墓はなんだったん

・父親の扱い。悪徳の体現者のような父親との共存を眞人君が受け入れる、ということが夏子との和解にはセットになっている。父殺ししてないから父親への屈従の問題は解決してないけど、そこは大叔父を乗り越えたからいいのか? それでいいのかパヤヲ?

・最後の戦後のシーン、ぼーっと観てたらすぐ終わり、そこで見てなきゃいけなかった弟を見過ごしてしまった。2回目には必ず……