大瀧詠一で真夏を彩る
もう、梅雨明けなのだろうか。暑い日差しがアスファルトを熱し、うだるような気候にうんざりさせられる。しかし、日陰で風が吹いてくれば、もうしばらくすれば秋がくることの予感もある。夏だ。
A Long Vacation
真夏の始まり、ということでかける曲は、TUBE——ではない。通称ロンバケ、大瀧詠一のA Long Vacation である。
昔はこれ、レコードで聴いてたんだよなぁ。今はちょっと置く場所もないし、子供が走り回って針飛ばしたり盤割ったりしそうなので、実家に眠らせている。レコードで聞くのがなんか夏っぽいんだけどな。とはいえ、Apple MusicでiPhoneから聴くのでも、最近は音質がいい。Lossless とかいって、設定で高音質再生を選択しておくと、例えば「君は天然色」最初のチューニング音に含まれる高い倍音なんかまで聴こえてくるほどちゃんと音が再現される。でもレコードがいいよなぁ。
レコードがいいのは、このジャケットのイラストもある。レコードのジャケットのイラストでいえば、前に記事にしたリー・オスカー「風をみたかい」の鈴木英人のイラストもイケてる(リー・オスカーのベスト盤「風を見たかい」:「約束の地」「朝日のサンフランシスコ・ベイ」ほか - 読んだ木)。でも、このロンバケのジャケットも相当いけてるし、こっちの方がよく知られているだろう。このイラストは言わずと知れた永井博のものだ。この、海のそばのプールの誰もいない感じ、これが大瀧詠一の歌が描くちょっとアンニュイな雰囲気をよく表現している。
▼昔の写真見返してたらジャケットを写真に収めていた!
▼Amazonでは当時のLPもまだ入手可能らしい。これで子供に割られても安心だ(?)
君は天然色
このアルバムの収録曲の目玉はなんといっても最初の「君は天然色」だが、この歌のタイトル自体が既に色褪せている。僕は結構大きくなるまで、これを「きみはてんねんいろ」と読んでいた。もしかしたらこの記事の読者にもそう読む向きがあるかもしれないが、それは間違いだ。ここでいう「天然色」は「てんねんしょく」と読むのである。しかし21世紀を生きる僕らに天然色なんて言葉は馴染みがなくてな。
一応補足しておくと、天然色というのは、昔、白黒の映画しかなかった頃に、新たにカラー映画が出てきた時、自然の色みnatural colorだ、ということで「天然色」と打ち出したのである。つまりフルカラーという意味だ。なお、「オールカラー」「総天然色」という表現もあるが、これは一部だけフルカラーの映画があったので、それと区別するためにそう銘打っていたらしい(Wikipedia情報)。
他の曲もそうだが、全体的に海辺のリゾートにいる話であって、だからイラストも海辺の屋外プール付きホテルだと解釈すべきだろう。いまどきこんな綺麗で静かなところはインドネシアにでも行かなければないかもしれないが。歌の登場人物も、血気盛んな若者というより、もう散々遊んで、30代とか40代に突入し、しかし子供などはおらず生活上の余裕があり、まだ遊びたいけどもう元気もないし、という雰囲気を感じる。村上春樹とは違う方向性のアンニュイさだ。こちらは遊び方を知っている、というかね。まぁバブル崩壊後の日本ではちょっとイメージも湧かないような贅沢さがある。
カナリア諸島にて
いやほんと、その贅沢さってのはいいもんで。「カナリア諸島にて」を聴いて、じゃあカナリア諸島はどこにあるのかな、と。
Googleで検索してみると、アフリカ北西部のスペイン領の群島です、とか出てくる。
おおー良さげなところだ。なんか洞窟とかもあるらしい。でも日本の歌でこんなところを歌詞にするって、やっぱりそういう時代だったんだよね。日本人が高度成長期で世界各地に出かけて行って、そこで稼いだり遊んだりしてた頃。村上春樹もマルタ島について書いたり(スプートニクの恋人 (講談社文庫))、沢木耕太郎もユーラシア大陸縦断してるし(深夜特急1―香港・マカオ―(新潮文庫))、なんか余裕があったいい時代だったよね。今はみんな貧乏旅行か物価の安いところに逃避するしかなくて、先進国のプール付きホテルのリゾートに行くとかはできないからなぁ。余裕のないヒッピー文化がスピリチュアル化して貧乏の忍耐を説くための自己啓発になる、あるいは教祖のためのカモ作りに使われる、みたいなところがあって、やっぱり反資本主義的な文化も資本の支えがないとな……なんて思ったりしてる。ともあれ、今どきの、自分の部屋すら一歩も出ないで世界が変わることを祈るような歌とは違う味わいがある。最近のそういう歌も好きなんだけどね。yama とか聴いてるし。
▼yamaで一番すきな曲
まぁ、このコロナ禍でそもそも旅行も何もできない時代なので、贅沢とかそういったこと以前の話という感じもするが、なんとか想像力を働かせて、妄想の中だけでも夏を楽しみたいものである。
追記
今日たまたま見かけたニュースで、ロンバケのSACD (Super Audio CD)が、発売40周年記念で出るとか(大滝詠一、名盤『A LONG VACATION』のSuper Audio CDがSony Music国内歴代1位の初回出荷枚数を記録 | E-TALENTBANK co.,ltd.)。40周年記念ですでに色々出てたような? と思ったが、確かに上の方に貼ったリンクは40周年の再販CDでもSACDではなかったようだ。さらに、アナログレコードもでるそう。これは音質違うのかな、うちにあるアナログレコードも多少プレミアだったりして? やっぱり子供に割られないように大切に聴かなくては……
▼SACDのやつってこれかな?
▼40周年LPはこれだ。ちょっとほしいな。笑
* * *
〔季節に合わせた曲の話シリーズ〕
春の訪れを感じた時:「モーツァルト日和 - 読んだ木」
春のまだ肌寒い頃「リー・オスカーのベスト盤「風を見たかい」:「約束の地」「朝日のサンフランシスコ・ベイ」ほか - 読んだ木」
少し暖かい春の朝:「カーペンターズの朝 - 読んだ木」
初夏の空気:「懐かしい吹奏楽曲「セドナ」を聴きながら - 読んだ木」